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横浜地方裁判所 昭和44年(行ウ)9号 判決 1976年11月26日

原告 西木富久

被告 横浜南税務署長

訴訟代理人 房村精一 桜井卓哉 渡辺信 ほか七名

主文

原告の主位的請求中、昭和四一年分所得税に関して、昭和四二年一二月一六日付の更正処分および過少申告加算税賦課決定のうち、昭和四四年七月二六日付再更正処分および過少申告加算税賦課決定により減額された部分につき取消しを求める請求を却下し、その余の部分につき取消を求める請求を棄却する。

原告の予備的請求を却下する。

訴訟費用中、金八二五〇円を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  請求原因第1ないし第3項の事実はいずれも当事者間に争いがない。これによれば、所得金額を金一四四八万一五七三円(農業所得金一万七九一〇円、不動産所得金八四万七九三四円、給与所得金九〇万〇二六〇円、譲渡所得金一二七一万五四六九円)、所得税額を金六三一万二七三〇円とする先の更正処分のうち、所得金額金一一六三万五一五三円(農業所得金一万七九一〇円、不動産所得金八四万七九三四円、給与所得金九〇万〇二六〇円、譲渡所得金九八六万九〇四九円)、所得税額金四七四万六九三〇円を超える部分は、後の(減額)再更正処分によつて取り消され、その効力を失つたものというべきである。したがつて、原告の主位的請求のうち、後の(減額)再更正処分によつて減額された金一五六万五八〇〇円の部分、およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定によりすでに取り消された金七万八三〇〇円の部分の取消しを求める部分は、右処分のとき以降その法律上の利益を失うに至つたというべきであり却下を免れない。

二  そこで、原告の主位的請求のうち残余の部分について判断する。

まず、被告が原告の昭和四一年度の所得金額のうち譲渡所得の金額を最終的に金九八六万九〇四九円と認定したことは前述のとおりであるので、その当否について検討するに、原告が昭和四一年度中に被告主張(一)ないし(三)掲記の各土地をその主張のとおり譲渡したことおよび右(一)掲記の各土地を譲渡するため原告が港南開発株式会社に対し仲介手数料として金二九万五〇〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがなく、右(一)ないし(三)掲記の各土地の取得価額が被告主張のとおりであることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされる。

ところで、原告は、右(一)掲記の各土地および同三の(1)掲記の各土地はいずれも安西光蔵の第三者に対する借受金債務について原告がその保証(物上保証)債務を履行するために譲渡したものであるところ、これに伴う求債権の全部を行使することができると主張するので検討するに、<証拠省略>ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

すなわち、

1  安西光蔵は、その実兄豊治、逸作らが経営する酪農業を手伝つていたが、昭和三九年三月ごろ、独立して横浜市内に喫茶店「リド」を開業した。そして、安西は、右営業を株式会社組織に改め、同年六月二〇日、喫茶店の経営および印刷業等を営業目的とするポール商事を設立して自ら代表取締役に就任し、喫茶店の経営のほか、タイプ印刷業をはじめた(ただし、この点は当事者間に争いがない)。原告は、安西の義兄(姉の夫)に当つていたことから同人に頼まれポール商事の設立に際しては発起人の一人となつたほか、設立後は監査役に、また昭和四〇年七月二〇日には取締役に名を連ねたが(ただし、原告が右のような役職に就いた点は当事者間に争いがない)、ポール商事の経営はもつぱら安西がその事業の協力者である鈴木彰の助けを借りて主宰していた。そして、原告は、安西の依頼によりその都度、事業資金を融通したり、安西が第三者から資金を借り受けるについてその保証人となり、自己所有の不動産を担保に提供し、あるいは自己の名義を使用させるなどしていた。

2  昭和四一年四月ごろ、倒産した亀井印刷株式会社の工場建物およびその敷地ならびに機械設備等が売りに出されたことから安西は、これを買い受けてポール商事の事業の用に供し、活版印刷も手がけようと考え、その資金調達のため、原告に担保の提供方を依頼してその承諾を得ることともに、いずれも金融業者である原弥門および新井重雄の両名に対しそれぞれ原告所有の不動産を担保に資金を融通してほしい旨の申込みをした。原、新井の両名は、いずれも一旦はこれを承諾したものの、いざ金員を交付する段になると、安西には資産、信用が乏しいので担保提供者である原告が借主となるのでなければ貸せないといい出し、しかも右不動産担保の形態も買戻しの特約付売買とするよう要求したので、原告も止むなくこれを承諾した。その結果、原告は、原に対し昭和四一年四月一日買戻しの特約(期限同年九月末日、価額金二四二万円)付で(1)横浜市南区下永谷町字八木二五五二番の一八二宅地一二〇八・九五平方メートルを金二〇〇万円で、新井に対し同月一六日買戻しの特約付で(2)同所同番の二二一宅地六九〇・一八平方メートル、(3)同所同番の二二二宅地一四三・八六平方メートル、(4)同所二六一三番の一山林一四〇四・九四平方メートルおよび(5)同所二六一四番宅地二六七・〇〇平方メートルを金六〇〇万円でそれぞれ売り渡した。そして、右各売買に際し、原告は安西との間で、同人の負担で右(1)ないし(5)の各土地を買い戻すという約定の下に、同人が原および新井の両名からそれぞれ右各売買代金を受領してこれを自己のために使用することを承諾し、これに基づいて安西は原および新井の両名からそれぞれ右各売買代金の交付を受けた。ところが、期限が到来しても新井から右(2)ないし(5)の各土地を買い戻すことができなかつたので、安西は同年五月一一日、原告の承諾の下に、金融業者である三辛商事に原および新井の各債権の一括肩代りを依頼し、原告名義をもつて、同会社に対し買戻しの特約(期限同年八月一〇日、価額金一〇五〇万円)付で右(1)ないし(五)の土地に加えて(6)横浜市南区下永谷町字八木二五五二番の一八三宅地六九一・九〇平方メートルを金八九七万五〇〇〇円で売り渡すと同時に、その代金で原から右(1)の土地を、新井から同(2)ないし(5)の各土地をそれぞれ買い戻した。

3  ところで、これより先、日興建設は原告の注文により請負代金は造成後の土地の四割をもつてこれに当てるという約定の下に右の(1)ないし(6)の各土地の宅地造成工事を請負い、施工していたところ(ただし、この点は当事者間に争いがない)、右の事情を知つた同会社の親企業に当る大興不動産は、期限までに右各土地が買い戻されないときは、請負代金が回収不能となることをおそれ、原告に対し三辛商事の債権の肩代りを申し出た。そこで、原告は同年八月一〇日、大興不動産から金一〇五〇万円を、弁済期日同年一一月一〇日、利息日歩三銭の約定で借り受け、この借受金で三辛商事から右(1)ないし(6)の各土地を買い戻すとともに、右借金債務を担保するため右(1)ないし(3)および(6)の各土地に抵当権を設立した(ただし、抵当権を設定した点は当事者間に争いがない)。そして、原告は前記のとおり被告主張(一)掲記の各土地を売却処分し、その売得金をもつて右借受金の利息および元金の一部の支払いに当てたほか、元金残額の支払いに代え、前記のとおり大興不動産に被告主張(三)の(1)掲記の各土地を譲渡し、右貸借関係を清算した。以上の事実が認められる。<証拠省略>中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに信用しがたく、ほかにこれに反する証拠はない。

右認定の事実によれば、原告が大興不動産から金一〇五〇万円を借り受けたものであつて安西が借り受けたものではないのであるから、これを支払つても原告は安西に対して求債権を取得する理由はない。したがつて、その支払いのため自己所有の不動産を第三者に譲渡しても原告には所得税法六四条二項の免税措置を受ける余地はないものといわなければならない。したがつて、大興不動産との間の右金一〇五〇万円の消費貸借上の借主が安西であり、原告がその保証(物上保証)人であることを前提とする原告の再抗弁はその余の点に触れるまでもなく理由がない。

そこで、被告主張(一)ないし(三)掲記の各土地の譲渡収入金額計金二三四五万八二五〇円からその取得費計金三二七万五一五一円および譲渡経費金二九万五〇〇〇円を控除し、さらに特別控除額金一五万円を差し引いた残額金一九七三万八〇九九円に二分の一を乗ずると、その譲渡所得は金九八六万九〇九四円となる。したがつて、被告が原告の昭和四一年分の所得金額のうち譲渡所得の金額を最終的に右と同額に認定したのは相当であり、先の更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定のうち後の(減額)再更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定により取り消された部分以外の部分には所得金額のうち譲渡所得を過大に認定した違法はない。

三  過少申告加算税の根拠規定である国税通則法六五条は、同条二項において同条一項所定の課税要件を具備する場合でも、修正申告または更正により納付すべきものとされた税額の計算の基礎となつた事実のうち、ある事実がその修正申告または更正前の税額の計算の基礎とされなかつたことについて「正当な理由」があると認められるものがある場合には右事実に係る増差税額分については過少申告加算税を賦課しない旨を規定している。原告は右の「正当な理由」というのはその判断を課税庁に白紙委任しているので憲法三一条に違反し無効であると主張する。

租税法律主義のもとでは、租税法規の課税要件、課税除外の要件が一義的明確に規定されることが最も望ましいこと、特に、過少申告加算税のように、賦課課税の形式をとつているものの、その実質が行政罰には入らないけれども一種の行政的制裁措置である場合には、一層その要請が強いことは、原告の主張するとおりである。

しかしながら、租税法規は複雑にして多様な、しかも、活溌にして流動的な経済現象をその規制の対象としているところから、あらかじめ予想されるあらゆる場合を具体的に法定することは、立法技術上限界があり、止むを得ず、不確定的な概念を用いて抽象的概括的な規定をすることも許されるものと言わなければならない。ところで、同条についてこれを見るに、同条二項の法意が、同条一項の課税要件を具備するすべての場合に過少申告加算税を賦課すると事情によつては納税義務者にとつて苛酷な結果を招来することもあり得ることから、かかる事態を回避する目的のために設けられていること、かつ、この目的にしたがつて過少申告加算税を賦課しない特別要件として、「納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合」と規定し、如何なる事実につき「正当な理由」の有無を判断すべきかについて一つの基準を示している。したがつて、同条二項にいう「正当理由」とは立法技術上止むを得ず用いられた不確定概念と考えるのが相当であるし、又右にいう「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するかどうかは、法の解釈適用の問題として、いわゆる法規裁量事項と解されるから、行政庁の自由載量を許したものでもなく、まして行政庁に恣意的な解釈を許容したものでもないこと明白であるから、この規定が憲法三一条に違反するということはできず、これに基づく右過少申告加算税賦課決定には原告主張の違法はない。

また、前述したように、同法六五条二項は過少申告加算税の課税要件そのものを規定したものではなく、同条一項所定の課税要件を具備する場合であつても、同条二項所定の場合には当該事実に係る増差税額分については過少申告加算税を課さない旨を定めた例外規定であるから、納税義務者の側に右の場合に該当する事由の存在について主張、立証責任があると解するのが相当であるところ、前段認定の事実によれば、大興不動産からの金一〇五〇万円の借受金の借主は原告であつて安西ではないことが明らかであるから、原告が被告主張(一)ないし(三)掲記の各土地の譲渡の事実をその昭和四一年分の所得税額の基礎としなかつたことには正当な理由があるものとは認められず、この点に関する原告の主張は採用できない。

四  また、原告の予備的訴えがその利益を欠き不適法として却下を免れないことは、先の更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定と後の(減額)再更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定との相互関係について前述したところから明らかである。

五  よつて、原告の主位的請求中、先の更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定のうち後の(減額)再更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定により取り消された部分の取消しを求める部分ならびに予備的訴えをいずれも不適法として却下し、原告の主位的請求のうちその余の部分は理由がないから失当として棄却すべく、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条、九〇条に則り、原告が本訴状に貼付した印紙の費用のうち原告の主位的訴え中右取消しを求める部分に相当する金八二五〇円は訴え提起当時は原告の権利の伸張のため必要なものであつたが、本訴提起後に至り被告が請求の目的である先の更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定に誤りがあることを認めてその一部を後の(減額)再更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定によつて取り消した結果、右取消しを求める部分が訴えの利益を失うに至つたことが弁論の全趣旨により明らかであるから被告に負担させることが相当であり、その余の訴訟費用は原告の負担として主文のとおり判決する。

(裁判官 石藤太郎 大塚一郎 森真二)

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